暗号資産(仮想通貨)を「家族が迷わず相続できる」状態にする完全手順(2026/01/13時点・日本想定)
目的:あなたが亡くなった後、相続人が「①存在の特定」「②アクセス(回収)」「③評価・申告」を迷わず完了できる状態を作ること。
なお、資産を隠して申告しない方法の案内はしません(違法リスクが高く、追徴・加算税等の対象になり得ます)。相続税は原則として相続開始を知った日の翌日から10か月以内に申告・納税です。
まず用語だけ(知識ゼロでも迷わない)
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取引所(交換業者):メール+本人確認で口座を作り、売買・入出金をする場所。死亡時は原則凍結され、相続人が手続して清算する流れが用意されることが多い。
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ウォレット:暗号資産を「保有している状態」を管理する道具。
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自己保管(ハードウェア/スマホ/PC):秘密鍵(またはシードフレーズ)を自分で持つ。
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取引所保管:秘密鍵を取引所が管理し、あなたはログインで操作する。
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シードフレーズ(復元フレーズ):自己保管で最重要。これが漏れると盗難、失うと回収不能。
1. 大前提(税務で揉めないための“言い切り”)
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暗号資産は、相続・遺贈・贈与で取得すると相続税/贈与税の課税対象です(「財産的価値」を持つため)。
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相続・贈与で取得した暗号資産の評価は、原則として納税者が取引している暗号資産交換業者が公表する課税時期の取引価格で行います(残高証明書の取引価格も含む)。
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活発な市場が存在しない暗号資産は、取引実態等を勘案して個別に評価します。
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相続後に売却などをすると、相続(または遺贈・贈与)時点の時価が取得価額の基準になり、差額は所得計算に影響します。
結論:「見つからない」「入れない」ほど、家族が困るだけです。税務・手続・家族内の紛争が同時に発生します。
※補足:『家族が知らなければ申告不要(税務署も分からない)』という発想は、相続人を危険にします。申告義務は残り、後で送金履歴や取引所記録から判明すると、期限後申告や加算税・延滞税の対象になり得ます。だからこそ台帳で存在を明確化し、評価根拠を残して「正しく申告できる状態」を作るのが最短です。隠すより、仕組み化が勝ち。家族を守る。今すぐ実行。
2. 今すぐすべき事(今日〜1週間で終わる“最小セット”)
2-1. 存在を特定できる「暗号資産台帳」を作る(最重要)
最初はA4 1枚で十分。紙+PDF(暗号化)で二重化します。台帳には鍵そのものは書かず、「何がどこにあるか」だけを書きます。
台帳テンプレ(コピペ用)
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■取引所(国内/海外):
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取引所名/口座ID(分かる範囲)/登録メール
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2FA方式(SMS・認証アプリ・パスキー等)
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年間取引報告書の保存場所(フォルダ名)
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■自己保管ウォレット:
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ウォレット種別(例:ハードウェアA、スマホB、PC C)
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アドレス(主要なものだけ)/チェーン名
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シードフレーズの保管方法(封筒A、金庫B等)
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■共通:
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端末の保管場所(スマホ/PC/ハードウェア)
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重要書類(本人確認書類、印鑑、通帳等)の場所
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代表相続人候補/連絡先
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顧問先(税理士・司法書士・弁護士がいれば名称のみ)
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2-2. アクセスできる「鍵の保管設計」を作る(盗難と相続の両立)
初心者が失敗しやすいのは「家族に教えない」と「無防備に教える」の両極端です。おすすめは次の3パターンから選ぶこと。
パターンA:封筒方式(最も簡単)
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シードフレーズ/復旧コードを紙に書き、封筒に入れて封印。
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封筒の保管場所は台帳に書く(鍵は書かない)。
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封筒は2通作り、別の場所に保管(例:自宅金庫+貸金庫)。
パターンB:分割方式(盗難耐性を上げる)
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シードフレーズ等を2〜3分割し、単体では復元できない形にする。
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分割片の保管場所を別々にし、台帳に「A+Bが必要」など条件を書く。
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重要:分割ルールを複雑にしすぎない(相続人が詰む)。
パターンC:マルチシグ(上級だが“家族負担は軽くなる”)
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署名者を複数にし、一定数の承認がないと動かせない仕組み。
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例:あなた+配偶者+専門家(または信頼できる第三者)で「2/3」。
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メリット:1人が鍵を失っても回収可能。デメリット:設計ミスの致命傷。
2-3. “手続きの入口”を作る(取引所を使うなら最短)
国内取引所は、死亡時に相続人が連絡→必要書類提出→凍結→清算/返還という流れを案内しています。
例:bitFlyerは相続人からの問い合わせを受け、必要書類案内後に確認が完了した段階でアカウント凍結へ移行するとしています。Coincheckも相続手続きの流れを公開しています。
方針:相続人が初心者なら、暗号資産の種類・チェーン・DEXを増やすより、国内取引所+銘柄数を絞るほうが、結果として家族の損失(時間・手数料・ミス)を減らします。
2-4. 遺言書と「指揮官」を置く(揉め事を最小化)
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遺言書で「暗号資産を誰に、どの割合で」「遺言執行者(手続きを動かす人)」を定めると、相続人全員の合意形成コストが下がります。
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公正証書遺言は、実務上、遺言者死亡後も長期保存される取扱いが説明されています。
2-5. 家族に「探し方」だけを共有する(鍵は共有しない)
相続対策は、書類を作っても家族が存在を知らないと機能しません。おすすめは「鍵を渡す」のではなく、次だけ共有することです。
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台帳がある場所(例:書斎のファイルA/金庫の中)
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封筒/分割片の保管場所(例:貸金庫の番号は“別紙”に、鍵は別保管)
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亡くなったときに最初に連絡する先(代表相続人/専門家)
さらに、財布に入るサイズで「暗号資産相続カード(鍵なし)」を作ると、突然の事故でも見つかりやすいです。
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カード記載例:
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「暗号資産台帳があります」
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「保管場所:〇〇」
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「代表連絡先:〇〇」
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「注意:端末初期化禁止」
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2-6. 取引所相続で必要になりやすい書類を「先に」揃えやすくする
取引所の相続手続きは、基本的に「相続人であること」と「故人の死亡」を書類で確認します(細部は各社で異なる)。
相続人が走り回らないよう、台帳に「どこで取得するか」まで書いておくと効果が大きいです。
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死亡の事実:死亡診断書(写し)/除籍謄本など
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相続関係:戸籍謄本一式、法定相続情報一覧図(作れるなら)
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代表者の本人確認:免許証・マイナンバーカード等
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分割の根拠:遺言書、または遺産分割協議書+印鑑証明
3. 今後も継続してしていかなければいけない事(メンテ計画)
3-1. 台帳を“生き物”として更新する(更新しない台帳は毒)
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更新トリガー:取引所追加/解約、メール変更、端末買い替え、ウォレット追加、2FA方式変更。
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最低でも半年に1回、次を点検:
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端末がどこにあるか 2) 2FA復旧コードがあるか 3) 封筒/分割片が揃っているか
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3-2. 証跡を残して「評価・申告」を作業に落とす
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年1回:取引所の年間取引報告書・入出金履歴・残高のスナップショットを保存。
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相続時評価は、交換業者の公表価格や残高証明書の取引価格を使う考え方が示されています。
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相続税は10か月期限なので、家族が戸籍収集や残高証明の請求に着手できるよう、保存場所を台帳に明記します。
3-3. 納税資金の“段取り”も用意(値動き資産の落とし穴)
暗号資産は価格変動が大きく、死亡時点の評価が高いと納税資金が不足しがちです。相続税に延納制度があり、要件を満たす場合に申請できる旨が説明されています。
→ 具体策:①一部を円化しておく ②納税用の現預金枠を確保 ③売却ルール(誰が、いつ、どこで)を台帳に書く。
3-4. 「複雑な暗号資産」を増やさない(DeFi・NFT・ステーキングの注意)
相続で最も詰みやすいのは、資産の所在が「取引所口座」ではなく、複数チェーン上のコントラクトに分散しているケースです。NTAのFAQでも、市場が活発でない暗号資産は個別評価になる旨が示されており、評価の説明コストも跳ね上がります。
そこで“家族のため”に、次のどれかを選びます。
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方針1:生前に整理して、相続時点では「国内取引所で現物保管」に寄せる
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方針2:どうしても続けるなら、台帳に追加で「解除手順に必要な情報」だけ書く
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例:チェーン名、主要アドレス、ステーキング/ロック期間、利用サービス名、必要な端末
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例:NFTなら、マーケット名とコレクション名(評価の根拠が残りやすい)
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4. 相続人向け:死亡後のタイムライン(これだけで動ける)
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まず台帳を探す → 端末・封筒・分割片の所在を確保
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取引所が分かるなら、相続手続きページから代表相続人が連絡(凍結前に勝手に操作しない)
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残高証明・取引価格(評価根拠)を確保
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相続財産全体を確定 → 相続税の要否判定 → 10か月以内に申告・納税
4-1. 相続財産が未分割でも「申告期限は延びない」
暗号資産は分割協議が長引きやすいですが、相続税は分割されていなくても10か月以内に申告・納税が必要で、期限が延びない旨が説明されています。だからこそ、遺言執行者や代表相続人を決め、台帳で作業を前倒しすることが重要です。
5. 絶対にやってはいけない3つ(家族が詰む原因)
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スマホを初期化/解約を急ぐ(メール・2FAが死ぬ)
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シードフレーズをLINEやクラウドに平文で置く(盗難リスク最大)
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「誰にも知らせない」を美徳にする(見つからず、相続も納税も破綻)
6. 優先順位(迷ったらこの順)
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最優先:台帳(棚卸し)+鍵の保管設計+遺言執行者
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次点:国内取引所へ集約し、相続手続きルートを固定
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仕上げ:半年ごとの更新+年1回の証跡保存


