FinTech(フィンテック)で劇的に変わる金融サービス~融資、ソーシャルレンディングの場合~
融資とは、個人や法人が、銀行やノンバンクなどの金融機関から、必要な資金を借り入れることです。個人の場合は、住宅や自動車の購入、教育費などの目的で、また法人の場合は、事業の拡大のための設備投資などの目的で資金を調達します。
ただ、銀行やノンバンクが融資を行う場合、各々の独自ルールにのっとった審査を行い、返済可能性などに鑑み、場合によっては担保などを求めた上で融資の実行可否を決定します。
銀行の場合、融資の原資は銀行のお客様からの預金です。お客様からお預かりしている大事なお金ですので、融資したお金が返ってこなかった、などとなると大変です。そのため、銀行は、融資審査を行うための企業の事業分析や財務状況の分析などの専門知識をもつ人員を抱えています。
しかし、審査は人間にしかできないものなのでしょうか。ここでもFinTech(フィンテック)を活用する、新しいサービスが台頭してきています。
例えば、目の前の人物に300万円を融資し、3年後に返済をしてもらえるのかの判断を行なう事を考えてみましょう。
目の前にいるのは、東京都世田谷区に住む35歳の男性で、資本金が4,000万円の企業に勤めて10年目で、現在年収は650万円。結婚していて子供はいなくて、住宅ローンは抱えていない。
このような同じプロフィールをもつ人が例えば1,000人いたときに、返済ができないのは1,000人中何人かを計算するのです。その1,000人の中にはその後、勤務先が倒産する人もいるかもしれませんし、好条件でヘッドハンティングを受ける人もいるかもしれず、返済の可能性はそれぞれ異なります。
そのような情報を基に、世田谷区在住の35歳のその男性は、どの程度の割合で返済できそうかが推計できます。
コンピューターが、融資を受けたい企業の財務データや個人の所得証明書などから、ビッグデータ解析によって返済可能性を算出し、その結果に基づいて、融資することができるか、金利はどの程度に設定すればよいか、などを判断します。
もし、融資を受けたい個人がMint(ミント)を使っていて、勤め先企業がQuickBooks(クイックブックス)を使っていたとします。
銀行側がMint(ミント)やQuickbooks(クイックブックス)のAPIを使ってデータを自動的に収集できるとするなら、それに基づいたビッグデータ解析を経て、融資の可否や金利水準などの条件が瞬時に計算されることにより、ユーザーは足げく金融機関に通わなくても、素早く融資を受けられるようになるかもしれません。
“ビッグデータ解析”と”アルゴリズム生成”によって融資を判断できる時代
ビッグデータ解析による融資の判断は、金融機関自身が行うことももちろんできますが、ビッグデータの解析やアルゴリズムの生成が得意なIT企業に依頼し、共同開発することも一般的になってきています。
融資の判断材料は様々なものがあります。例えば、Amazon(アマゾン)マーケットプレイスに出店しているあるショップで、毎月300万円の売り上げがあるとしましょう。
Amazon(アマゾン)は売上げや各種の取引データを把握しているため、このショップになら●●万円までならすぐにでも融資しても良いと考えるかもしれません。
実際、Amazon(アマゾン)の取引データを見て返済能力を判断するサービスは、すでに米国で始まっています。ユーザーは「Kabbage(カベージ)」というサービスに自分のAmazonマーケットプレイスのアカウントを預けると、返済能力を判断してもらうことができます。
Kabbage(カベージ)は取引データを基に、融資の可否や、金利をどの水準で選定するかを判断しています。
■Amazon(アマゾン)の取引データを見て返済能力を判断するサービス「Kabbage(カベージ)」
・Webサイト(https://www.kabbage.com/)
・App Store
・Google Play
もともとネットショップは、担保となり得る土地を持たず、オンライン上の店舗のみで商売を行い、在庫を多く抱える傾向にあるので、従来の銀行の基準では融資を受けにくい業態です。
ですから、Kabbege(カベージ)のようなオンラインショップの格付けを得意とする企業が重宝され、成長資金を迅速に提供することにより、中小企業の成長に貢献しています。実は、日本国内ではAmazon(アマゾン)自身が、Amazon(アマゾン)マーケットプレイスのトランザクションを活用した融資を開始しています。
■法人の販売事業者向けの融資サービス「Amazonレンディング」・・・http://www.amazon.co.jp/gp/press/pr/20140220
また、このような個人の特性や事業性を見たローンのほかにも、ソーシャルネットワークの情報を活用するような融資の形も生まれています。
ドイツのノンバンクのKreditech(クレディテック)などは、Facebook(フェイスブック)の友達情報などを参照しながら、クレジットスコアが高い友人が多い人の信用度を高く評価するモデルを有しています。
米国のVouch(バウチ)は、保証してくれる友人をソーシャルネットワーク上で募ることで、金利を安くすることができる貸出サービスを行っています。
このように、ユーザーが自ら信用力の基となるような情報を付加的に開示することで、より有利な融資条件を引き出すことができるのも、新たなプレーヤーならではの特色といえます。
■Facebook(フェイスブック)の友達情報などを参照しながら信用度を評価するビジネスモデルの「Kreditech(クレディテック)」・・・https://www.kreditech.com/
“借り手”と”貸し手”を直接つなぐ「ソーシャルレンディング」とは?
以上に見てきた融資のモデルでは、貸し手は基本的に銀行やノンバンクなどの金融機関で、自らお金を出すケースとなっていました。しかし近年では、借り手と貸し手が直接マッチングされるようなサービスが生まれて始めています。
それが、ソーシャルレンディング、もしくはPSP(Peer to Peer)ファイナンスと呼ばれる業態です。
ソーシャルレンディングは、インターネット上でお金を借りたい個人や企業と、お金を貸したい個人や企業とをマッチングし、結びつけるサービスを指します。これは、インターネットが存在しなければ提供することが難しかったマッチングサービスといえます。
このビジネスが拡大してきた背景には、リーマンショック以降の金融規制の厳格化があります。リーマンショック以降、それまでの金融システムが崩壊したことを踏まえて、過度な貸し出しを規制するために、国際的な金融機関では自己資本比率規制が厳しくなり、資本金に対して融資できる金額が減りました。
そのため、金融機関から融資を受けられる人や金額は減ってしまいました。とりわけ海外では、新規に融資を受けたい個人事業主や中小企業などがその対象となっているほか、従来と比べると、住宅ローンなどの融資条件も厳格化してきています。
一方で、個人投資家や機関投資家にとっては、世界的にゼロ金利やマイナス金利環境が生まれるなかでは、資産運用を行う上で高いリターンを求めることができる運用手段がかなり限られてきています。
こういった背景の下、お金を運用したい投資家と、資金調達が必要な個人や企業との間をつなぐようなサービスが誕生したのです。
例えば、先ほど例に挙げた35歳男性がお金を借りたい場合、従来は、金融機関から借り入れるしかありませんでした。しかし実は、手持ちのお金をすぐには使わないので、ある一定以上の金利であれば、その男性にならお金を貸してもいいよ、という個人や企業は世の中に存在するかもしれません。
こういったサービスはすでに欧米、そして日本でも始まっています。
最もシンプルなのは、英国のKiva(キバ)でしょう。サイトを見ると、500ドルとか1,000ドルといった少額資金を借りることを希望している人のリストを見る事ができます。
■英国のソーシャルレンディングサービス「Kiva(キバ)」
・Webサイト(http://kivajapan.org/)
・App Store
・Google Play
借り入れを希望している人達は、「そのお金があれば仕事に必要な新しいツールを買う事ができるので、ぜひ融資を受けて、しっかり儲けて返済したい」といったことをプレゼンしています。
ほかのサービスも見てみましょう。2014年12月にニューヨーク証券取引所に上場した米国発のLending Club(レンディングクラブ)は、ソーシャルレンディングの代表的な企業です。
■Lending Club(レンディングクラブ)・・・https://www.lendingclub.com/


オンラインでローンの申し込みを受け付け、様々なデータを基に借り手の審査を実施し、信用力に応じて格付けを行います。条件が決定すると、いったんパートナーの銀行からの貸し付けが行われた後に、その債権(返済金を受け取る権利)を購入したい投資家の募集が行われる仕組みとなっています。
現在、Lending Club(レンディングクラブ)の融資金額は累計1.8兆円(※2016年3月時点)となっており、成長を続けています。
日本でも同様のサービスをManeo(マネオ)が提供しています。
■Maneo(マネオ)・・・https://www.maneo.jp/


例えば、2,000万円を借りたい人がいるとします。
「金利は5~8パーセントで、6カ月間で返済します」という情報がManeo(マネオ)のサイトで公開されると、それを見た人たちは「自分は10万円なら貸せる」「50万円貸せる」といった具合に意思表示をし、それがManeo(マネオ)を通じて、融資を受けたい側に渡るという恰好です。
ただし、現在のところ日本ではまだ「1対1のソーシャルレンディング」は制度上認められていません。よって、このような融資先を複数集める必要があり、複数の投資家がファンドを通して複数の融資先に貸すようなモデルになっています。
もし日本でも貸金業法および関連する制度が変更されれば、この分野は大きく変化する可能性があります。
「融資型クラウドファンディング」と呼ばれるソーシャルレンディング
ジャンルを絞ったソーシャルレンディングもあります。例えば、米SoFi(ソフィ)は、学生ローンの借り換えサービスを提供しています。
■SoFi(ソフィ)・・・https://www.sofi.com/home1/


SoFi(ソフィ)に登録した学生は、同じ大学の卒業生が貸し手となる金利の低いローンに借り換えができるだけでなく、卒業後に向けて、履歴書の書き方を教わったり、面接の練習を受けられたりします。
一見ソーシャルレンディングとは関係のない付加サービスのように見えますが、SoFi(ソフィ)に登録した学生がこれらを利用することで、借り手の将来の給与を上げ、ローンの返済能力も上げるのです。
いずれのサービスも、返済が滞った場合は、ソーシャルレンディングサービスの事業者が主として回収を行います。しかし、お金を貸した側の元本は保証されません。
銀行が融資を行う場合、その原資は預金者の預金ですが、貸したお金を回収できなくても、預金者の預金が減ることはなく、銀行がその損失を被ります。しかし、ソーシャルレンディングの場合は、お金を出した側が直接的に損失を被る点には注意が必要です。
ソーシャルレンディングは、「融資型クラウドファンディング」とも呼ばれます。ソーシャルレンディングの場を提供する企業は、融資額の1~3パーセントほどを手数料として得ます。
それでも、借りる側は、金融機関から借りるよりも安い金利で借りられますし、貸す側は、金融機関に預金するときよりも高い金利が期待できます。場合によって銀行が一時的につなぎ融資を行う事もありますが、最終的には、個別の投資家と融資先がつながる仕組みとなっています。
FinTech(フィンテック)によって生まれる”新しい融資手法”
従来の融資手法にとどまらず、FinTech(フィンテック)により、新たな信用力評価や商品組成の方法が生まれてきています。米OnDeck(オンデック)は2014年12月に上場したビッグデータレンダーです。
PSPで融資を仲介するLending Club(レンディングクラブ)とは異なり、自らローンを組成し保有するほか、証券化をして売却も行うという点では、デジタル化された銀行に近い位置づけのプレーヤーといえるでしょう。
OnDeck(オンデック)はこれまで、データ分析を通じてスモールビジネスの審査を行う能力に強みを発揮してきました。クラウド会計ソフトとの連携や独自のデータ分析を活用し、スモールビジネスの多様なキャッシュフローにも自動審査で対応。
最近では貸倒率を7パーセント未満の水準に抑えることに成功しています。
前項で解説したクラウド会計サービスを使うと、企業ユーザーはバランスシート(B/S)や損益計算書(P/L)情報はもちろんのこと、銀行残高や取引データ、さらにPOSと相互につなげることによって、毎日の売り上げやキャッシュフローも把握できます。
こういったデータを基に融資を実行することで、従来の仕組みでは融資ができなかった中小企業に、短期間で融資することが可能となってきています。
FinTech(フィンテック)プレーヤーによる非伝統的な融資は、まだ始まったばかりともいえます。今後、貸出規模が大きくなるにつれて、貸倒率の増加や資金の調達コストの上昇など、様々な課題も出てくると思われます。
しかし、いずれにせよ、個人や法人にとっては、様々な調達方法が用意されることは歓迎すべきことといえるでしょう。












