FinTech(フィンテック)で劇的に変わる金融サービス~ブロックチェーン、分散型台帳、仮想通貨~




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FinTech(フィンテック)で劇的に変わる金融サービス~ブロックチェーン、分散型台帳、仮想通貨~

 前項で、金融機関の手がけるサービスには、インフラの部分とアプリケーションの部分があると説明しましたが、このインフラの部分に最も大きな影響を及ぼしそうなのが、ブロックチェーンです。

 

 ブロックチェーンは昨今、世界的に注目されている技術ですが、金融取引を裏付ける重要な機能である「データを正確に、かつ効率的に安価に保存する」という点において、現在のインフラを一新するような、大きな革新をもたらく可能性があります。 

 正確なデータを保存するニーズは、金融取引に関するものだけでなく、公的なインフラでも数多くあります。

 例えば、法務省法務局には、土地の所有者の情報や売買の情報などが記録された登記簿があります。また、証券保管振替機構には、証券取引所などで売買された株式の取引や保有者の情報が記録されています。

 また、金融機関の間でのお金のやりとりは、金融機関が共同で管理するデータベースに保管されています。そして、どの台帳も、盗まれたり改ざんされたりすることがないように、厳重に保管・管理されています。

 どれか1つのサーバーに不具合が生じても、同じ内容の別の記録を参照することができるように、多重にバックアップがとられています。

 この台帳を、特定の金融機関内で管理するのではなく、通信し合う複数のサーバーで管理するのが「分散型台帳」システムと呼ばれているものです。

 

 分散型台帳システムは、それがパブリックなものであるかプライベートなものであるかという軸と、保存されるデータの真実性を、技術的な性質で解決しているか(トラストフリー)、ルールに基づく合意(コンセンサス)で解決しているか、という2つの軸で分類されます。

 パブリック型とは誰もが使える開かれた形で、プライベート型とは、いわば会員制の形です。例えば、ビットコインの仕組みなどはパブリック型で、誰でもその枠組みの中に入ることができるものとなっています。

 一方で、プライベート型では、事前に決められた複数のサーバーのみによって成り立ちます。

 

 では、トラストフリーとコンセンサスの違いは何でしょうか。それを説明するためにも、パブリックでトラストフリーな分散型台帳システムの仕組みを実現しているブロックチェーンを、電子メールになぞらえて説明してみましょう。

 

 

「分散型台帳システム」の仕組みとは?

 AさんがBさんに「この10,000円をお渡しします」とメールで知らせたとしましょう。Bさんはそのメールに、もらったメールの履歴を残したまま「了解しました」と返事をし、それに対してAさんも履歴を残して再度「よろしくお願いします」と返したと仮定します。

 しかし、Aさんが2通目の「よろしくお願いします」メールを送るときに、1通目の「10,000円」を「1,000円」にわざと改ざんしていたとしたらどうなるでしょうか。

 Bさんがそれに気づき、「1,000円でなく10,000円ですよね?」と指摘できれば良いのですが、過去の履歴はチェックせず、「了解しました」と返事をしてしまったら、Bさんは9,000円を受け取りそびれてしまいます。

 もしもBさんが、送受信したメールをすぐに削除してしまうタイプの人であったら、Aさんが改ざんした証拠はAさんの手元にしかないことになります。しかし、この一連のやり取りの記録がほかの複数の人たちにも送信されていれば、話は変わってきます。

 他の人たち、例えばCさん、Dさん、Eさんの手元に、改ざんされる前のメールが残っていれば、Aさんが改ざんした事実は公となり、改ざんを無効かすることが可能となります。

 

 このようなやり取りのなかで、最新のメール内容に相当するのが、「ブロック」と呼ばれる取引記録です。そして、メールの中にはたくさんの返信履歴が含まれていますが、一連の返信自体がつながっていることが「鎖(チェーン)」のようになっています。

 このブロック1つひとつのつながりがチェーンのようであることが、ブロックチェーンの語源となっています。メールのやり取りに使われたネットワークに接続されているサーバーが「台帳」です。

 サーバーは複数台接続されていて、サーバー間で履歴を共有しているので、分散型台帳と呼ばれます。

 「お支払いします」「お願いします」のやり取りは、サーバーの台帳に記録されていて、それを誰もが参照できるようになっています。このサーバーの記録を改ざんしようとする場合には、大きな費用がかかります。

 その大きな費用とは、マイニングと呼ばれる巨大な計算を大量のコンピューター上で行うために必要な電気代です。

 

 マイニングとは、単純化して言えば、「特定条件を満たすランダムな数字を計算するための作業」のことです。コンピューターの計算能力と、コンピューターを動かすための電気を大量に使い、世界中で約10分の1度、正解を導き出すような計算が行われ、その正解を導いた人には報酬が与えられます。

 マイニングで正解を導き出すと、その計算結果を使って上記のメールの記録を確定することができるのですが、マイニングを行う人が悪意をもっていたとしても、メールを改ざんして確定するよりは、正解を出して報酬を得続けることの方が、経済的メリットが大きいように設計されています。

 また、何ブロックも前のデータを改ざんするためには、そのブロックの数だけのマイニングに連続して成功する必要があるため、実務的には不可能であると見られています。

 そのため、悪意のあるユーザーがいる前提であっても、システムとしては真実性が保たれるため、そもそも信頼が不要、つまり「トラストフリー」と呼ばれるゆえんとなっているのです。

 ブロックチェーンは、「パブリックでトラストフリーな分散型台帳システム」であり、その代表的な利用事例が、「ビットコイン」ということになります。

 

 このような構成をもつビットコインですが、運用が始まった2008年以降、一度も改ざんされておらず、システムダウンも経験していないことは、この技術が新たなインフラ技術として注目される最大の要因でもあります。

 また、ビットコインなどの仕組みでは、決済取引を中央集権的に管理する必要がありません。例えば送金は、従来の仕組みでは送金記録を管理、保管するためにコストが発生していましたが、ビットコインを仮想通貨として使うと、送金の記録をほぼ無料で行うことができるようになります。

 

 

ブロックチェーンの”メリット”と”デメリット”

 ビットコインでは約10分に1度、今誰が何枚のビットコインを持っているのか、そのビットコインはどこをどう通ってきたものなのかが確定され、履歴に加わります。

 ある資産をAさんに渡すはずがBさんに渡ってしまったとか、CさんとDさんに重複して渡す約束をしてしまったといったミスをそのまま記録に残さないために、あとからどの契約が正しかったのかを判定できる時間の枠が、マイニングが成立する約10分間なのです。

 この10分が、実際に使用するに当たっては長すぎるため、実用化は難しいと考えられるケースは当然あります。金融市場での売買や通販サイトなど、高速で契約や取引を確定させたいケースでは、このままの形では実用に耐える事はできないでしょう。

 

 一方で、改ざんができないことや、システムダウンしない特性は非常に有用であるので、ブロックチェーンをやはり本格利用したいという意見が当然出てきます。

 そこで登場する1つの方法が、分散型台帳をマイニングではなく、コンセンサスの下で運用することです。これは一例ですが、確定作業を信頼のおける複数のサーバーに任せ、そのサーバーの何割かがOKを出せば、そのデータは正しいと認めるという仕組みで運用する形になっています。

 現在、金融機関の多くが関心を持っているのは、「プライベート型でコンセンサスベースの分散型台帳システム」です。限られたネットワーク内で取引データの記録を行うことで、高速の取引にも活用できるため、分散型台帳システムの本格活用を検討しています。

 

 例えば現在、ブロックチェーンでは、記録できる文字数上の制限から、1秒間に処理できる取引の回数が約7回に制約されています。10分かけて履歴が確定する間には、約4,000回のやり取りが可能です。

 ここで、オンラインショップでの実用化を考えてみましょう。例えば、オンラインショップがタイムセールを行ったとします。その限られた時間帯には、多くの購入希望者も、できるだけ早くしなければなりません。

 1秒間に7回どころか、70回も700回もやり取りが必要となることもあるでしょう。ましてや、アクセスが殺到したという理由でシステムがダウンし、購入希望者に迷惑をかけるわけにはいきません。

 1秒間に処理ができる回数を増やすことができれば、短時間に集中する売買を問題なく処理することができます。

 

 ブロックチェーンのボトルネックを嫌う人たちは、ビットコイン以外の分散型台帳システムに注目しています。ただ一方で、それらの仕組みは、ビットコインが今まで実績を残してきた安定性や、改ざんできない仕組みであることに対して、同等の機能を有することがまだ証明できていない段階にあります。

 金融機関の間で安心して利用できるようになるまでは、今後多くの実証実験が行われる必要があります。

 とはいえ、いずれ技術的な問題が解決されていけば、分散型台帳システムは、多くの参加者が正しいことを担保し合う仕組みとして、大きなインパクトをもっていくことが期待されます。

 土地建物の登記や株式の売買に限らず、日常的な契約や、スマートコントラクトと呼ばれる、ある一定の条件(電気を使ったタイミングで電気代が発生するなど)で発動する契約で使うことも可能になっていきます。

 既に、ブロックチェーン上で結婚を宣言した人たちもいるなかで、分散型台帳システムは、金融の分野に限らず、中央集権的に台帳が管理されていたシステムを補足、あるいは代替していく存在と位置づけることができるでしょう。

 

 

関連リンク まとめ

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